仕事で疲れ果て、ようやく自宅のマンションに辿り着いた深夜二時のことでした。冬の冷たい風に身を震わせながら、いつものようにカバンのサイドポケットに手を入れた瞬間、全身の血の気が引くのを感じました。あるはずの鍵の感触がどこにもないのです。慌てて街灯の下でカバンをひっくり返し、中身をすべて地面に広げましたが、無機質なアスファルトの上に鍵の姿はありませんでした。駅からの道を必死に思い返しましたが、暗い夜道でどこに落としたのか見当もつきません。オートロックの入り口を住民の方に開けてもらい、自室の前まで来ましたが、固く閉ざされたドアは私を拒絶しているようでした。スマホの電池は残りわずか。このまま廊下で朝を待つのかという絶望感が押し寄せました。 私は震える手でスマートフォンを操作し、二十四時間対応の鍵開け業者を探しました。深夜ということもあり、どこも繋がらないのではないかと不安でしたが、三軒目に電話した業者が「三十分ほどで伺います」と言ってくれました。その声を聞いただけで、救われたような気持ちになり、涙が出そうになりました。待っている間の三十分は、人生で最も長く感じられた時間でした。周囲に人気はなく、冷気が容赦なく体温を奪っていきます。もしスマホの電池が切れていたらと思うと、ゾッとしました。やがてエレベーターの扉が開き、作業着を着た方が現れたとき、私はまるで地獄で仏に会ったような心地でした。作業員の方は私の免許証を確認し、素早くドアの構造をチェックしました。 私の家の鍵は最新の防犯タイプだったため、鍵穴をいじって開けるのは不可能だと言われました。代わりに、ドアにあるのぞき穴を取り外して、そこから特殊な長い工具を差し込み、内側のつまみを回すという作業が行われました。暗い廊下で、カチャリという小さな音が響いた瞬間、どれほどの安堵感に包まれたか言葉では言い表せません。家の中に入り、暖房のスイッチを入れたとき、当たり前にあるはずの「家」という空間のありがたみを痛感しました。作業費用は深夜料金も含めて決して安くはありませんでしたが、あのまま凍える夜を過ごすことを考えれば、プロの技術に対する正当な対価だと思えました。翌日、私はすぐに職場のデスクにスペアキーを預け、さらにはスマホで解錠できるスマートロックの購入を決めました。一本の鍵を失うだけでこれほどまでに生活が崩壊することを、身を以て学んだ忘れられない夜となりました。
深夜の玄関前で鍵がないことに気づいた絶望の夜