イモビライザーが搭載されている車の鍵は、単なる金属の板ではなく、精密な電子デバイスです。このため、街の合鍵ショップで「同じ形に削ってもらう」だけでは、絶対にエンジンをかけることはできません。イモビライザーとは、鍵のヘッド部分に埋め込まれた小さなトランスポンダチップと、車側のコンピューターが無線でIDコードを照合し、一致した場合のみ燃料供給や点火を許可するシステムだからです。ディーラーでスペアキーを作る際には、この電子的な特性を理解した上で、いくつかの注意点を守る必要があります。 まず、登録作業の際には「手元にある全ての鍵」をディーラーに持ち込むことが鉄則です。新しく一本を追加するだけのつもりでも、車両のコンピューターは新しいIDを登録する際に、現在の登録情報をリセットして再構築することが多いからです。もし予備の鍵を自宅に置いたまま作業を行うと、その鍵のIDがリストから消去されてしまい、作業後にその予備キーでエンジンがかからなくなるというトラブルが発生します。ディーラーのメカニックは必ず全ての鍵を出すよう求めてきますが、これは非常に重要な確認事項です。 次に、中古のスマートキーを持ち込んでの登録は、原則として断られることが多い点に注意が必要です。インターネットオークションなどで安く売られている同じ車種のスマートキーを購入し、ディーラーで登録だけしてもらおうと考えるユーザーもいますが、多くのメーカーの仕様では、一度他の車に登録されたスマートキーは再登録できないよう「ロック」がかかっています。これを解除するためには特殊なリセット作業が必要ですが、ディーラーではセキュリティ上の理由から純正新品以外の上書き登録を認めていないケースがほとんどです。結局、新品を買うよりも高くつくか、作業自体を拒否されることになります。 最後に、作成にかかる時間に余裕を持つことです。イモビライザーの登録作業自体は三十分から一時間程度で終わりますが、前述の通り部品の取り寄せに日数がかかります。さらに、最新の車種ではメーカーのサーバーと通信しながらの登録となるため、通信環境やサーバーのメンテナンス状況によっては作業が翌日に持ち越されることもあります。緊急で今日中に必要だという要望は、ディーラーの仕組み上、非常に通りにくいのが現実です。イモビライザーという高度な守りがあるからこそ、その鍵を作るプロセスもまた、厳格で時間の要するものになるという認識を持つことが大切です。