認知症の家族が、夜中やふとした瞬間に、一人で玄関から外へ出ていってしまう「徘徊」。その行動を目の当たりにした時、介護する家族の心には、愛する人を危険から守りたいという切実な思いと共に、「外から鍵をかけて閉じ込めてしまう」ことへの、深い罪悪感が生まれます。この行為は、果たして許されることなのでしょうか。その答えを見つけるためには、まず、この行為の目的を、私たち自身が正しく理解し、受け止めることが不可欠です。玄関の外から鍵をかけるという行為は、決して、家族を罰したり、その尊厳を傷つけたりするためのものではありません。それは、交通事故や転倒による怪我、あるいは、夏場の熱中症や冬場の凍死といった、取り返しのつかない、命に関わる深刻な事故から、大切な家族を「守る」ための、最後の、そして最も確実なセーフティネットなのです。認知症による徘徊行動の背景には、ご本人の不安や混乱、そして「家に帰らなければ」「仕事に行かなければ」といった、過去の記憶に基づく、切実で論理的な目的意識が存在することが多いと言われています。その行動そのものを、力ずくで否定するのではなく、その奥にある不安な気持ちに寄り添いながら、まずは物理的な安全を確保してあげること。それが、介護における愛情の、一つの形なのです。しかし、この行為には、火災などの緊急時に、中から避難できなくなるという、極めて重大なリスクも伴います。だからこそ、外から鍵をかけるという選択をする際には、必ず、ケアマネージャーや地域包括支援センターなどの専門家と十分に相談し、そのリスクを最小限に抑えるための、具体的な対策を、同時に講じなければなりません。一人で悩み、一人で決断し、一人で罪悪感を抱え込む。それこそが、最も避けるべき状況です。外から鍵をかけるという重い決断は、介護者が、社会的なサポートを求め、孤立から抜け出すための、重要な第一歩でもあるのです。