認知症の親が、時々、一人で家を出て行ってしまう。玄関に外から鍵をかけることも考えたけれど、火災の時のことを思うと、どうしても踏み切れない。そんなジレンマを抱える家族にとって、物理的な鍵だけに頼らない、もう一つの、そして、とても温かい「外鍵」が存在します。それが、「地域社会との連携」という、目には見えないセーフティネットです。その第一歩となるのが、地域の「徘徊SOSネットワーク」や「見守りネットワーク」といった公的な仕組みへの登録です。これは、行方不明になった際に、本人の特徴や服装といった情報を、地域の協力機関(警察、消防、交通機関、協力事業者など)に一斉に配信し、地域全体の目で、早期発見につなげるシステムです。事前に登録しておくことで、万が一の際に、迅速な捜索活動が開始されるという、大きな安心感を得ることができます。しかし、こうした公的なシステム以上に、日々の安心を支えてくれるのが、ご近所との「顔の見える関係」です。民生委員や、地域包括支援センターの専門家と一緒に、あるいは、勇気を出して自分から、近所の家や、よく利用する商店などを回り、「うちの父が、もし一人で歩いていたら、危ないので、声をかけて、私に連絡をいただけますでしょうか」と、お願いしてみるのです。もちろん、最初は勇気がいるかもしれません。しかし、事情を正直に話せば、多くの人は、快く協力してくれるはずです。「お互い様だから」という、その一言が、介護で孤立しがちな家族の心を、どれだけ温めてくれることでしょう。こうして築かれた人間関係は、最新のセキュリティシステムにも劣らない、非常に強力な「見守りの目」となります。近所の人が、散歩のついでに、あるいは、買い物に行く途中に、さりげなく家の様子を気にかけてくれる。その無数の優しい視線こそが、物理的な鍵のように、大切な家族が、危険な世界へと迷い出てしまうのを、未然に防いでくれる、最も人間らしい「外鍵」なのかもしれません。